「きさらぎ駅」という駅は日本に存在しない。しかし、「きさらぎ駅」で降りたという女性がその後、神隠しに合ったかのように行方不明になったという話がある。
これは、2004年に匿名掲示板「2ちゃんねる」(現在は「5ちゃんねる」)のオカルト板に寄せられ話題になった都市伝説だ。
現代版神隠し都市伝説きさらぎ駅
ハンドルネーム「はすみ(敬称略)」と名乗る女性と思われる人物が、深夜23時23分に以下の投稿をしたことから始まる。
- いつも通勤に使っている電車が、20分くらい(走っているが)駅に停まりません
- いつもは5分か長くても7~8分で停車するのですが停まりません
- 乗客は私のほかに5人いますが皆寝ています
2ちゃんねるのスレッド参加者が「はすみ」に質問をして次第と詳しい状況が明らかになっていく。
「はすみ」は、通勤で浜松市内を走る私鉄「遠州鉄道」を利用していて、いつものように「新浜松駅」から乗車したが、電車がなかなか停車する様子が無く、20分くらい走り続けていると話した。
そして、電車は聞いたこともない無人駅「きさらぎ駅」に停車、その駅で電車を降りたと報告した。
「はすみ」が「きさらぎ駅」に降りてからも奇妙な現象は続く。きさらぎ駅には「駅名標」や「時刻表」などが無く、駅周辺に民家などもない。駅前にタクシーも止まっていないと話した。
「はすみ」は、駅から歩いて帰宅しようとするが、(線路上を歩いて来た方向へ引き返す)しばらく歩いていると 遠くの方から太鼓と鈴の音が聞こえ、後ろから「線路を歩いたら危ないよ」と声を掛けられた。
振り向くと、片足の老人が立っていたが、そのまま消えてしまう。「はすみ」は、太鼓の音が聞こえる方向に向かうため、伊佐賀トンネルを抜けたところでとある人物とである。
その人物は、「ビジネスホテルのようなものがあるから、近くの比奈駅まで車で送る」と持ち掛けた。
ちなみに「比奈駅」は実在する駅ではあるが、遠州鉄道の駅ではなく、静岡県富士市内の吉原駅と岳南江尾駅とを結ぶ岳南電車の駅で、浜松の中心市街地から20分で行ける場所ではない。
「はすみ」は車に乗ったが、その人物は次第に無口になり、全く話さなくなった後で、訳のわからない独り言をつぶやき始めたことに不安を感じ、「隙を見て逃げようと思っている」という書き込みを最後に消息を絶った。
事前に携帯電話の充電が少なくなっていることを書き込んでいるため、充電が無くなったことが理由で報告が途絶えたかは不明だが、2ちゃんねる内では「はすみ」を心配する書き込みが後をたたず、様々な考察が行われた。
その後、7年も経った2011年になって「はすみ」は「生存報告」を書いているが、それが本人かは不明である。
「きさらぎ駅」が「さぎの宮駅」とされる理由
冒頭でも話したが、きさらぎ駅という駅は存在しない。投稿が深夜ということもあり、お酒を飲んでいて乗る電車を間違えたのではないかと思われるかもしれないが、「はすみ」が列車に乗車した新浜松駅はJR浜松駅から離れた場所にある遠州鉄道の独立した駅で、他の電車が乗り入れる駅ではないため、電車を乗り間違えることはありえない。また、新浜松駅からは下りの列車しか出ていないため、乗る方向を間違えたということもない。
当然ではあるが、遠州鉄道に「きさらぎ駅」という名前の駅は存在せず、駅と駅の間隔が20分という区間は遠州鉄道にはない。
しかし、実在する列車や地名が挙げられていることからこれらをヒントに「きさらぎ駅」はどこなのかという話で盛り上がり、スレッド参加者達はある答えにたどり着いた。
ポイントとなったのは「新浜松駅から約20分乗車」「無人駅」「ひらがなが入る駅名」これらから導き出されたのは、きさらぎ駅は遠州鉄道の「さぎの宮駅」ではないかという答えだ。
しかし、「はすみ」の投稿内容の全てが遠州鉄道の「さぎの宮駅」と合致しているわけではない。そもそも、駅名がちがう。浜松に住んでいて通勤、通学で遠州鉄道を利用しているなら、最寄り駅でなくても「さぎの宮駅」という名前は聞いたことがあるはずだから、駅名を間違えることは考えにくい。投稿の際に「さぎの宮駅」と投稿していない以上、その駅は「さぎの宮駅」ではないと考えるのが普通だ。
そして、「はすみ」は、「駅周辺には民家がない」と話すが、さぎの宮駅の西側は二俣街道という比較的 交通量の多い道が通っていて、当時は駅から歩いてすぐのところにパチンコ店(現在はドラッグストアー)や、浜松餃子で人気の「餃子の砂子」なども存在する。駅の東側は田んぼが目立つが民家やマンションも存在している。
「はすみ」が歩いて抜けたと話す「伊佐賀トンネル」というトンネルは市内に存在しない。(市内どころか日本に存在しない)
また、遠州鉄道を利用している人なら気付くと思うが、はすみの投稿には矛盾もある。はすみは「いつもは5分か長くても7~8分で停車するのですが停まりません」と投稿しているが、そもそも遠州鉄道で最も長い区間は「小林⇒芝本」の3分であり、7~8分どころかの5分の区間もない。
(さぎの宮駅西側)
(さぎの宮駅東側)
オリジナルの体験談では「きさらぎ駅」の正体は明らかになっておらず、投稿の真偽も定かではないが、実際に存在する列車や地名が挙げられ、駅というロマン感じられる舞台設定から「パラレルワールドに迷い込んだ」「神隠しに遭遇した」などのように長年語り継がれている。
毎年1月8日 きさらぎ駅の日
匿名掲示板「2ちゃんねる」に投稿された都市伝説きさらぎ駅の影響は大きく、静岡新聞の記事によると、当時は遠州鉄道本社に多くの問い合わせが寄せられたという。
(イベント時の駅名看板)
遠州鉄道は都市伝説『きさらぎ駅』が投稿されたのに合わせて、毎年1月8日を「きさらぎ駅の日」として、「駅限定切符」の販売や、さぎの宮駅の駅名看板の一部を「きさらぎ」として装飾するなどのイベントを開催している。
限定切符は毎年デザインが更新され、あっという間に完売するほどの人気で、装飾された駅名看板は1日限定ということもあり、その希少性から多くの人が写真に収めにやってくる。
現時点で情報は公開されていないが、次年の1月8日も「きさらぎ駅の日」として何かしらのイベントが開催されると思われる。
遠州鉄道が全面協力「映画きさらぎ駅」公開
「きさらぎ駅」はマンガ、小説など数々の創作物に取り上げられている。漫画では、2014年『はじまりの夜行列車』(著者:KirororO/スクウェア・エニックス)、2018年『ルーモア・ヒューモア』(著者:さいとう林子/祥伝社)、『となりの妖怪さん』2巻(著者:noho/イーストプレス)に登場している。小説では、角川つばさ文庫『恐怖コレクター』巻ノ十一(著者:佐東みどり、鶴田法男)、『裏世界ピクニック』(著者:宮澤伊織/早川書房)1・2巻に登場する。
海外でも台湾のホラー作家・笭菁が『如月車站』という小説を発表した。日本語に訳すときさらぎ駅。また、香港のマンガ家・鄭健和によってコミカライズされるなど、きさらぎ駅は海外でも日本の都市伝説として話題となっている。
さらに、多少オリジナルの物語とは異なる部分はあるが、「裏世界ピクニック」でアニメとして映像化され、「ウソかホントかわからない やりすぎ都市伝説 2021春SP」では主演:駒井蓮によってドラマ化もされた。
そして、2022年6月『映画きさらぎ駅』が公開が決まった。映画の作成にあたっては遠州鉄道が全面的に協力している。
本作で主演を務めるのは映画初主演となる「恒松祐里」。2005年にドラマ「瑠璃の島」で子役としてデビュー。その後、2009年「キラー・ヴァージンロード」で映画デビュー。2021年には、Netflix「全裸監督 シーズン2」でヒロイン役を務めた。
【映画きさらぎ駅公式】
https://kisaragimovie.com/
【遠州鉄道】
https://www.entetsu.co.jp/